(M-5)宝くじに当たったら H11・12/31

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 廊下の窓をコンコンノックする音が聞こえた。
さては子狐が手袋でももらいに来たかと俺はカーテンをそっと開けてみる。
メフィストが窓越しにニヤニヤしていた。
「久しぶりだな。前に会ったのは夏の前だな〜」
サッシを開け部屋に入れてやり次は皮肉の一つでも言ってやろうと思った。

 メフィストは6月にセリーグの優勝は阪神で来期は横山ノックがシートノックをするというとんでもない予想をしていたのだ。

 ところが哀れ阪神は最下位になり、ノックはセクハラ問題で辞任した。
「お前の予想なんだけどな、まあ過ぎたことはいいんだけど」
にやにや笑いながら言うとメフィストは取り合わず
「あ〜あ〜寒い寒い、とりあえずスルメでも焼いてくれ」と言いながら
見慣れない缶ビールを袋から取り出した。

「何だこれ、何処のビール?」
「来年、アサヒから出るスーパーモルツさ。度数が低いけどな」
「なんかこれ小さいな」
「300ml何だよ。さんびゃく缶ていうんだ。」
「なんか呼びづらいなぁ」
「いいからいいから、スルメ焼いてよ。」
メフィストはグビグビ缶ビールを飲み始めた。
・・・・・・・・・
「ところでお前宝くじ買ったか?」
「あぁ買ったよ。なんか味が薄いような気がするんだけど今流行のカロリーオフって奴?
300mlにすれば価格もいくらか安く思えるしなぁ」

「もし当たったらどうする。」
「株を買う」
「全部か?」
「いや2億」
「ふーん。当たった後の手続きの仕方知ってるか?」
「勧銀に印鑑と免許証を持っていくのさ。」
「それから?」
「それから?窓口で手続きするのさ。」
「どんな?」
「なんか住所と名前書くんじゃないの?」
「ハハハッ」

 それからメフィストはいろいろ説明を始めた。
「当たりくじを最初に確認するのは売場の人だ。読みとり機に入れ丁寧にくじに当選金額を書いてくれる。そして次に窓口に行きもう一度確認をし行員がアンケート用紙をくれるんだ。」
「アンケート?何のだ。」
「週刊誌などに宝くじ協会の広告が載っているだろ。・・夢の中にご先祖様が現れて西へ行けとしつこく言うので朝起きて西へ行ってみたら宝くじを買う行列を見つけ並んで買ったら当選した・・とか、お地蔵さんの前に財布が落ちていて拾った金で買ったら当選したとかそういうの。」

「ちょっと待て!拾った金で買うなんてそれネコババだぞ!」
「まあ拾った金は冗談だけどそんな記事を見たことがあるだろ。」
「ああ」
「あれはみんな高額当選者のアンケートからおもしろいエピソードを抜いているんだ」
「アンケートにはどんな項目があるんだ。」
「買った宝くじを何処に保管しといたとか、当選がわかってからは何処に保管したとか、当選金で何を買うとかだな。そしてなにかエピソードがあったらという項目がある。」
「なるほど。それが週刊誌の記事として出るのか。」

 メフィストは続けて言う。
「そしてくじと引き替えに預り証をくれるんだ。この時行員がこのままくじを持ち逃げするのではと恐れて行員に身分証明書を求める人もいるらしい。そして行員は自分が当たらなかったもんだから当たった人をおどかすのさ。メガネの縁をあげ・・預り証をなくすとお金が渡せません。お金は1週間から10日ほどかかります。用意できたら連絡してもいいですか。家族に知られてもいいですか!ってな。」メフィストの声がだんだん高くなる。

 俺は300ml缶をもう6本空けていた。
「宝くじって第一勧銀の行員が買ってもいいのか!よくメーカーの高額プレゼントだとメーカー関係者は応募できませんとかあるけど」
「当たり前だろ。騎手だって馬券が買えるんだ。最も中央競馬の騎手が地方競馬の馬券を買えるって事だけど。その逆もな」

「俺エピソードだけは自信あるんだけどなぁ」
「なんて書くんだ。」
「商工ローンで100万円の連帯保証人になったら、いつの間にか1000万円の保証人にされちまって体売れって言われ、ワラにもすがる思いで買ったら当選したって」
「それはたぶんボツだろ」メフィストは素っ気なく言った。

「お前、でも何でそんなに詳しく知ってんだ。」
俺はメフィストの話を聞きながらひとつの疑問を持っていた。
彼は身分を証明するものは何一つもっていないのだ。だからこれは彼の体験ではないだろう。・・とすれば?

「昔つきあってた人間の女がくじに当たり付き添って行った時一部始終を見ていたのさ」
俺の心を読んだのか、聞かないうちに言ったが彼には心を読めるだけの力はない。心が読めたらとっくにばくちで大成しているはずなのだ。

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