(サラ劇 3) 田畑課長の杞憂 H11・2/5

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 祐子に子供にスキーを教えてやってと言われたので圭はスキーを出してきたのだが靴が小さくなったのか、足が太ったのか窮屈なので、10年前に買ったスキーを積んでスポーツ店に買いに行った。

 とにかく安くて履きやすい物を選ぶ。デザインやモデルの新しさは二の次。これが選ぶ基準だ。要は子供に教えるためだけに履くのだから。

 まず試しにどうせ買わないのだが一番高い靴を履いてみた。バックル式というのか履くのが結構大変だ。入り口が狭く足をねじ込もうとするとつりそうになる。

 前に弟に少し小さめの靴を買って足になじませるんだと聞いた事があるが、それはインストラクターの言う言葉だ。きついのはいやなのでとにかく楽に履ける物をと、さがすと、かかと側にパカッと上から割れるタイプの物があった。履いてみると楽に履ける。

 普段の靴は26.5なのだが27.5と28のサイズしかない。値段を見るとなんと1980円迷うことはない。すぐに店員にビンディングの調整を頼み買った。

 家に帰り、靴についていた値札をはがすと
1980円の下から2980円の値札さらに4500円そのまた下に7980円、そしてこの靴の定価は20000円となっている。

 値札をはがしながら圭の頭に資本主義というか市場原理というか、世の中こうなんだという思いがよぎる。
 圭の頭の中をよぎったのは昔暮らしていた女のことだった。

 法律事務所に勤めていた由美子は、給料が安いのがいやで、クラブのホステスになった。
 最初は六本木の芸能人が経営していた店で時給は4000円だった。しかし客の誘いなどのあしらいが下手なので、それが原因で次々と店を変わることになる。圭はその度に、車で店の面接に送っていたのだが、六本木から新宿、渋谷、高円寺と移る度に、由美子の時給は下がる事はあっても上がることはなかった。
 
 圭にはいつしか由美子が、中央で重賞レースを勝ちながらも、大井、盛岡と転厩し勝てないまま走るサラブレッドのように思えた。果たして今はどうしているか。

 そんな事を思いだしていると割烹着をした祐子が「お父さん年賀状よ!」と言いながら1枚のはがきを持ってきた。もう1月も9日である。今頃年賀状?誰だろうと思ってみると、そこには見覚えのある筆で
 
 圭ちゃん元気ですか 今度神楽坂に店を出
ました 東京来たらよってね 圭ちゃんお給料安いだろうからまけてあげるから


と書かれてありおよそ墨字とはつりあわない。
店の住所と名前 そして 由美子と書かれてあった。
 
 圭は立ったまま上から見下ろしている妻の祐子に「お母さん、杞憂って知ってる?」と言い祐子が知らないと言ったので「さあスキースキー」と言いながら立ち上がり部屋から出ようとした。背中から「どこ行くの!もう昼御飯よ!」と祐子の大きな声が聞こえてきた。
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田畑 圭 39歳 営業三課 課長
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