母の2000年問題(H12・7/3)
この文は11年の12/28に原稿用紙日記に書いたものをメールマガジンKISARAGI 7/2号に投稿するにあたり加筆したものです。
1999年の12月の事だった。夕食時に母が「2000年問題で」と言ったのでびっくりした。 新聞を見ているところはあまり見たことがないし毎日見ているTVと言ったら、お昼の「みのもんた」の番組か NHKの連続ドラマだ。 なんだろと思って聞いていると、病院で2000年問題の事を医師に聞いたというのである。 母は2年前クモ膜下出血で倒れ、幸い倒れたのが病院だったので処置が早く、手術をして3ヶ月後に以前と変わりなく通常の生活を送れるようになったのだが、頭にたまる水を体の中にカテーテルを通して膀胱の方に流すという処置をしている。 側頭部に膨らみがありそこからカテーテルを体内に通している。 「医者というのはすごいものだ」と母は言う。 定期的に医師の診断を受けているがその水の流量を調節したりするのは体の外側からできるようになっている。 頭の方に金属が入れてありどうも磁石を利用し調節をするらしい。 そのため母は体脂肪計などには乗ってはいけないと言われているのだ。 その母がなにかのTVを見ていて心臓のペースメーカーに2000年問題が起こる可能性があると聞き一緒に見ていた父が、一応念のため、通院している母に医者に聞いて見ろと言ったのだった。 それで母は「2000年問題で〜・・・」と医師に聞いたという。 「医者に笑われなかった。」と私が聞くと 「そういう心配はいりませんよ」と笑顔で医者は答えてくれたらしい。 「母さんサイボーグじゃないんだからコンピュータは入ってないのよ。」と私の妻が言う。 妻は母の命の恩人なのである。 母は頭が痛いと妻の仕事先に電話をしそして病院に行き血圧を測定しているときに突然 けいれんを起こし倒れたのである。妻が医者に的確な説明ができたのと専門の医者がいたため母は助かったのだがその時私は出張中で不在だった。 家族が危険な状態になったとき不在だったのは2度目だった。 妻が出産で止血剤によるアレルギー症状を起こし血圧が急激に下がり産婦人科に総合病院から専門医を呼んだときも 出張していた。出張先から帰り病院に行ったら薬物アレルギーで妻は四谷怪談のお岩さんのようなはれぼったい目をしておりそれを見て無事だったのはいいが顔が直らなかったらどうしようと思った。 その時は外見とは関係なく妻はしっかりしていたので冗談も言えたのだが。 出張からの帰りにまっすぐ病院に行き親戚が集まっている中、集中治療室に入ると酸素のマスクなのだろう、鼻と口にかぶせられそういうのは初めて見たが母は目をつむり荒い息をしている。 |
医師から手術は成功しましたと説明を聞き脳の写真を見せられたとき血管に小さなこぶが二つだるまの様に並んでいた。 一度出血をしそして2週間ほどしてまた出血したのである。 今から思うとたぶん1度目の時だったと思うのだがものすごく頭が痛いと母は言っていた。 しかし寝ていたら良くなりその後農作業もしていたのである。なんか頭が痛いといいながらもご飯支度もしていたのだった。 医師が病院以外で倒れていたら恐らくだめだったでしょうと後で妻に言ったそうだ。 「回復までの間に少しおかしな事を言うことがあります。」と医師は言う。 痴呆症みたいな事があると言うのだった。母はまだ61歳だったが医師の言うことは本当だった。 病院に時々寄ると「今日は誰々が見舞いに来た」と言うのだがそれがもう死んだ人であったり 遠くて来ることもできない親戚の人だったりした。「来てないよ」と私が言うと母は考え込み不思議な顔をするのだった。 歩けるようになってから病院のエレベータまで 二人で歩きながら私が「じゃ帰るから」と言うと「私も帰る!」と言って寝間着のままエレベータに 乗ろうとする。 多くの同じ様な患者を見ている担当の看護婦が回復が遅いですねぇというのが気がかりだった。 これは本当によくなるのだろうかと私は不安になり医師に聞いてみると「順調に回復するはず」と言うのだったがどうも思わしくなく結局体内に入れた頭にたまる水を通すカテーテルの状態が良くなかったらしく再手術をした。 後の話だが母と同じ器具を使用した他の患者も同様でそのメーカーの器具はそれから使用されなくなったらしい。 その後母は順調に回復し今は日常生活に苦労することはない。 父が頭の中に入っている装置は「シャント」と言う名前だと私に言う。 私も医者の説明を聞いたが、装置の名前までは知らなかった。 しゃんとしろと言うことで「シャント」と言うんじゃないかとご飯を食べながら笑いながら言う父に私は母の病気には気苦労をかけた父に一因があるのではないかと思い笑う気にはなれなかったが そういう事で笑えるのは母が今は通常の生活を送っていられるからなのだと思うと よかったと思う。 |