ローリング・ストーン H11・11/4


 JR新宿駅東口から伊勢丹本館の交差点を左に曲がりすぐの小路を右に入るあたりは新宿の3丁目である。 その先のROLLING STONEという店に時々飲みに行っていた。  
正確に言うと飲みに行っていたのではなくガンガンうるさい音楽を聴きに行っていたのだが。
 JBLの大きなスピーカーからハードロック系の音がガンガン流れ土曜日ともなるとテーブルやカウンターに収まりきらない客が金と引き替えに飲み物をもらい立ったまま飲みながら壁が黒く塗られた巣穴のような中で過ごしているのだった。  
 ここは名前から考えるとマディウォーターズの曲名かローリングストーンズからの命名だと思うのだが何故か店のマッチにはドアーズのジム・モリソンの写真が刷られていた。客層は様々で、いかにもバンドやってますよの連中から普通の勤め人(自分達の事だ) そして白人の男女から高校生ではないかと思われるものまで。
 まあ白人をのぞいては普通の店と同じだと思うのだが。 ただいかにも70年代初期を引きずったかあんたは!と思われるような中年長髪ジージャンおじさんとかをみると私と友人のk君は畏敬の念から「オォー!」と顔を見合わせていた。
 カウンターで酒を出す男性が何故か七三分けで黒縁メガネをかけているというのも巣穴に似合わず妙だった。

 この店を教えてくれたのはk君である。 k君によると白人が来るのはどうもアメリカの若者向けの日本への旅行ガイドブックに紹介されているのではあるまいかと言うことだった  それはわからないが情報雑誌のぴあとかシティロード(今は廃刊)には店は載っていた記憶がない。 ライヴハウスではないので載らなかったのかもしれないがk君と私は時々この店に来てはどでかい音に身をゆだねDJにリクエストをしたりしていた。

 ある時いつものように地下への階段を下りドアを開け真ん中の丸テーブルに腰掛けビールを頼んだ。2人の女の子が先に座っていたのだがこれだけのうるささの中、音楽が嫌いな連中は来ているわけはないので特に気兼ねもしない。 別に空いてますかと断ることもなく座るわけである。  そして店がだんだん混んで来て私達の後ろの席に白人の2人組が座った。この頃k君はアメリカから帰ってきたばかりで何も臆することなく後ろの白人と何か話をしている。(もちろん英語だ) 私ももう一人の若い白人と話を始めた。 「グッド・ミュージック」とかいいながら私の場合先ず英語圏と思われる人と話すときは話しかけられたら最初に必ず聞くのは 「キャンユー・スピークジャパニーズ」である。

 すると大概申し訳なさそうに「ノー」と言うか微笑みながら「スコシ」と言う。  今まで白人の男5人、女の人3人に聞いたが「話せる」と答えてくれた人はいなかった。 「スコシ」といいながら結構話せる女の子もいたがそれは日本のスナックに働きにきているフィリピンの女の子だったりした。  「ノー」と言われてからおもむろに「オーケー・アイキャンスピークイングリッシュ・ア・リトル」と言いそれから単語がメインの英語を話すわけである。これはかなり昔に読んだ五木寛之の古いエッセイのまんまである。  英語圏の人間は英語を万国共通語と思っているのでどこへ行っても英語で話す。日本にきたら日本語で話す努力をしなければいかんというような事を書いていたような気がする(だったかな〜)

 それはともかくその後白人に「何処から来た」とか「日本の印象は」とか聞いたりしていた。店には日本人の女の子が目当てでくる外人もいるので試しに「日本の女の子は好きか」 と聞いたら俳優のような整った顔で笑い白い歯を見せニコニコしている。 2人でビールを飲みながら笑っていると隣にいた女の子が「英語話せるんですか」と聞いてきた。髪を長くした薬師丸ひろこみたいな顔立ちの可愛い子である。
 場に合わない感じで高校生じゃないかと思い聞いたらそうではなかった。友人に連れられ初めて来たらしい。つたない英語で白人と話すよりもどちらかというと女の子と話す方が楽しいわけである。(恐らく誰でもそうだろう)

 ヘビメタの音がすごいので互いに近づいてちょっと雑談していたら女の子がトイレに立った時白人が私に「彼女と話したい」
と言う。女の子が英語を話せないというのは雑談の中で知っていたので「キャンノット! スピークイングリッシュ」と言うとなにか早口で答えた。

 意味が分からなかったのでもう一度聞くと身振りを交えながらどうやら「言葉を訳して彼女に伝えてくれ」と言っているのだった。

 私は「アイキャンスピークイングリッシュ・ア・リトルな人間だから希望には答えられない」
と言うと白人は残念そうな目をした。外人は表情やしぐさが豊かである。
昔私は女友達が連れてきたオーストラリアの女の人に反応がみたくて「アイム ドリンカー」と言ってみたら「オーッ!」と言われ首を振られ
顔をゆがめられたことがある。
 「アル中だ!」と冗談で言いゴクゴクビールを飲んだら額にシワがより綺麗な顔がゆがんだのだった。

 白人男性はつまらなそうにビールを飲んでいる。
女の子がトイレから帰ってくると私は場の成り行きから一応「君と話したいと言ってるが」
と言ってみた。すると薬師丸ひろこに似た髪の長い女の子は「英語は話せないし外人と話した事は一度もないから」と言いながらも何となく興味があるのがわかる。白人が俳優みたいないい男であるので興味をもっているのは明らかなのである。。

 どちらにしても私が間に入らなければならないのであった。背中に白人の視線を感じながら私は振り向き彼に「オーケー」と言うと彼はニコニコし何やら自分の名前らしきものと何かを言ったのだが意味がよくわからないまま私はシドニーシェルダンの訳ではないが勝手に超訳し(この場合言ったかどうかわからないが想像と付け足しで補強の意)

 「彼は君の事がいかにも日本人の女の子らしく優しそうで髪が黒くて可愛いと言っている。」だいたいこんな物だろうと彼女に伝えた。

 すると女の子が「恥ずかしい」と言いながら連れの女の子と何か話している。
そして私に言った。「日本に来て何してますか年はいくつですか。学生ですか?」
おいおいこれじゃホントに通訳だぞと思いながら「ハウオールド アーユー ユニバーシティ?ホワットドゥ ユー ウォント?スティインジャパン」
  適当に話すが何とか意味は通じているらしい。
何かしら彼が言うがまた超訳する。
「日本に遊びに来ている。旅行者だ。富士山は綺麗だ。26歳」

 そう言うことを何回か繰り返したのだが、その後全く意味が分からない事を白人に言われ出し何度も聞き直すのもいやなので下手なことを言われなくなりいいかげんな事で女の子を戸惑わせるのもまずいと思い電車の時間を口実にK君を誘い店を出ようとしたがK君はアメリカの生活の思い出でも話しているのかなかなか席を立とうとしない。

 結局彼を置いて帰ってきたが、その後白人と女の子はどうなったか知らないしk君は酔っていて一緒に行ったことも今は忘れてしまっている。

 実は今年の9月に久々に店へ行ってみたら白人が2人ほどいたのは相変わらずだったが、カウンターにはモヒカン刈りの男がいてメニューを差し出してくれた。店は幾分綺麗になっていたのだが日本のメタルみたいなものが流れていたのには驚いた。昔はまずかからなかったものである。
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